
月曜の朝、会議室の椅子に腰を下ろした瞬間、首の付け根がずしりと重い。
資料の数字を目で追っているのに、どうも頭に入ってこない。
夕方には腰が固まって、立ち上がるときに思わず「よいしょ」と声が出る。
経営者の方から、こうした話を聞くことは珍しくありません。
そして多くの方が、続けてこうおっしゃいます。
「でも、忙しくて体のことはつい後回しでね」。
その気持ちはよくわかります。
売上、資金繰り、採用、取引先との関係。
考えなければならないことが山ほどあるなかで、自分の体の優先順位が下がっていくのは、ある意味で自然なことです。
ただ、このコラムでは少しだけ見方を変えてみたいと思います。
経営者の体調は個人の問題ではなく、会社の業績に直結する「経営課題」だという見方です。
そして、その課題に対して今日からいちばん手軽に打てる手のひとつが、ストレッチです。
「出社しているのに力が出ない」がいちばん高くつく

健康経営の分野に「プレゼンティーイズム」という言葉があります。
出勤はしているものの、体調不良などで本来の力を発揮できていない状態のことです。
休んでいるわけではないので周囲からは見えにくく、本人も「このくらいなら大丈夫」とやり過ごしてしまいがちです。
ところが、この見えない損失は想像以上に大きいことがわかっています。
東京大学が2016年に公表した試算では、企業の健康関連コストの内訳のうち、医療費は15.7%、病欠などによる損失(アブセンティーイズム)は4.4%にとどまり、残る約8割をプレゼンティーイズムが占めていました。
東京大学政策ビジョン研究センターと横浜市が中小企業を対象に行った調査でも、体調不良による労働生産性の損失は従業員1人あたり年76.6万円と推計され、そのうち73.0万円がプレゼンティーイズムによるものでした。
原因として例に挙げられているのは、頭痛、肩こり、腰痛、寝不足といった、誰もが「よくあること」と片づけてしまう不調ばかりです。
これらは従業員を対象にした数字ですが、経営者に置き換えて考えてみてください。
社長の判断ひとつで、商談の行方も、投資のタイミングも、社員の士気も変わります。
経営者の集中力が落ちた状態が続けば、その影響は一人分では済みません。
しかも経営者には、代わりがいません。調子が悪くても会議には出るし、決裁もする。
プレゼンティーイズムがもっとも起きやすく、しかももっとも影響が大きい立場にいるのが、経営者だと言えます。
年齢の話にも少し触れておきます。東京商工リサーチの2025年の調査によると、全国の社長の平均年齢は63.81歳で、過去最高を更新しました。
70代以上が全体の3分の1を超えています。
経験を重ねるほど、体の変化とうまく付き合う技術が経営の持続力を左右するようになる。
これは避けて通れない現実です。
日本人は、世界でいちばん長く座っている

では、経営者の体を重くしているものは何なのでしょうか。
大きな要因のひとつが「座りすぎ」です。
シドニー大学などの研究グループが2011年に発表した20か国の比較調査では、日本人成人の平日の座位時間は中央値で1日420分、つまり7時間でした。
サウジアラビアと並んで、調査対象国のなかで最も長い数字です。
20か国全体の中央値は300分ですから、日本人はほかの国の人よりおよそ2時間長く座っていることになります。
経営者の一日を思い浮かべてみると、この数字はさらに増えそうです。
朝はデスクでメールを処理し、午前中は会議。昼は会食、午後は来客と打ち合わせ。
移動は車か新幹線で、夜はまた会食。気づけば起きている時間の大半を椅子の上で過ごしていた、という方も少なくないはずです。
厚生労働省の「2022年 国民生活基礎調査」では、病気やけがなどで自覚症状がある人の症状を多い順に並べると、男女ともに1位が「腰痛」、2位が「肩こり」でした。同じ姿勢を長く続けると筋肉はこわばり、血の巡りも滞りがちになります。
腰痛と肩こりがこれほど多いのは、座りっぱなしの暮らしと無関係ではないでしょう。
厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」でも、成人に向けた推奨事項として「座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する」ことがはっきり示されています。
国のガイドラインにわざわざ書かれるほど、座りすぎは日本人共通の課題になっているわけです。
ストレッチは「体をやわらかくする」だけのものではない

ここで、ようやくストレッチの話に入ります。
厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」では、ストレッチングを、筋肉や関節を意図して伸ばす運動として紹介しています。
柔軟性を高める効果はよく知られていますが、それだけではありません。
ストレッチング自体に2〜3メッツほどの運動強度があり、筋肉の温度や体温を上げる働きもあるとされています。
経営者の方にぜひ知っておいていただきたいのが、リラクゼーションの効果です。
同サイトの解説によると、30分ほどかけて全身の筋肉を順番に伸ばしていくストレッチングの前後で脳波や自律神経の働きを調べた研究では、前頭葉のα波が増え、心拍変動が大きくなって心拍数が下がりました。
つまり、体を休息モードに導く副交感神経の活動に、はっきりとした変化が見られたということです。
会議や交渉で一日中気を張っている経営者は、どうしても体が緊張モードのまま過ごす時間が長くなります。
仕事を終えても頭が冴えて寝つけない。休日も仕事のことが頭から離れない。
そんな方にとって、ゆっくり体を伸ばす時間は、オンとオフを切り替えるスイッチになり得ます。
一方で、正直にお伝えしておきたいこともあります。
ストレッチが生活習慣病の予防に効くかどうかについては、まだ十分な根拠がそろっていません。e-ヘルスネットもその点ははっきり書いています。
ただ同時に、柔軟性が高い人ほど動脈硬化の度合いが低いという報告があることにも触れています。
過大な期待はしない。
けれど、やらない理由もない。
ストレッチはそのくらいの距離感で、日々の習慣に置いておくのがちょうどいい運動だと私たちは考えています。
コンディショニングの本質は「続けること」

「コンディショニング」という言葉は、もともとスポーツの世界でよく使われてきました。
試合の日に最高の状態で臨めるよう、日々体を整えていくことを指します。
経営者にとっての試合は、毎朝の会議であり、ここ一番の商談であり、会社の行方を決める決断の瞬間です。しかも、その試合はシーズンオフなしで毎日やってきます。
だからこそ、一度だけ頑張るのではなく、良い状態を保ち続けることが求められます。
継続の大切さを示す、興味深い研究があります。関西医科大学で行われた研究では、週5回以上、1か所あたり20〜30秒の静的ストレッチを続けたところ、3か月で柔軟性と血管内皮機能に有意な改善が見られ、6か月後には動脈のしなやかさ(動脈スティフネス)にも改善が認められました。
ところが、ストレッチをやめて6か月が経つと、これらの数値は介入前の状態に戻ってしまったそうです。
ストレッチの効果は、貯金がききません。週末にまとめて1時間やるより、短くても毎日続けるほうがずっと意味がある。
言い換えれば、今日始めた人と始めなかった人の差は、3か月後にはっきり体に表れてくるということでもあります。
忙しい経営者のための、ストレッチの取り入れ方
とはいえ、「毎日続けてください」と言われても、まとまった時間を確保するのは簡単ではありません。
そこで、生活のなかに無理なく組み込むためのコツをいくつかご紹介します。
朝やゴルフの前は「動かしながら」伸ばす
起床後やゴルフのラウンド前など、これから体を動かす場面では、腕を大きく回す、脚を前後に振るといった、動きを伴う「動的ストレッチ」が向いています。
止まった姿勢でじっくり伸ばす「静的ストレッチ」を運動の直前に行うと、筋力やパワーが一時的に落ちるという話を聞いたことがある方もいるかもしれません。
この点については、カナダのデイビッド・ベーム博士らが2016年に発表したレビュー論文で整理されています。それによると、パフォーマンスの低下が起きやすいのは1つの筋肉を60秒以上伸ばしたときで、60秒未満であれば影響はごくわずかでした。
朝のティーオフ前なら、静的ストレッチは1か所30秒程度にとどめて、軽く体を動かす準備運動と組み合わせる。それだけで十分です。
夜は「止まって」ゆっくり伸ばす
一日の終わりは、静的ストレッチの出番です。
お風呂上がりの体が温まっている時間に、太ももの裏、お尻、胸のまわりなど、座りっぱなしで縮こまりやすい部分を、1か所20〜30秒ほどかけてゆっくり伸ばしていきます。
このとき気をつけたいのは、呼吸を止めないことと、痛みを我慢しないことです。
「少し伸びて気持ちいい」くらいで十分。痛いほど伸ばすと筋肉はかえって身構えて、緊張してしまいます。
会議と会議のあいだに「一度立つ」
先ほどのガイドラインにもあったとおり、座りっぱなしを避けることも大切です。
オンライン会議が終わったら一度立ち上がり、両手を背中の後ろで組んで胸を開く。
かかとをゆっくり上げ下げする。どちらも1分とかかりません。
コツは、ストレッチのために時間を「つくる」のではなく、すでにある行動に「くっつける」ことです。
歯を磨いたあと、お風呂から上がったとき、会議が終わったとき。毎日必ずやってくるタイミングに結びつけておけば、意志の力に頼らなくても続けやすくなります。
セルフケアだけでは届かないところがある

ただ、自分ひとりで行うストレッチには限界もあります。
ひとつは、自分では伸ばしにくい部位があることです。股関節の奥や肩甲骨のまわりは、正しい姿勢をとること自体が意外と難しく、伸ばしているつもりで別の場所に負担をかけていることも少なくありません。
また、自分の体のどこが固くなっているのかは、自分ではなかなかわからないものです。腰がつらいと思っていたら、実は太ももの前側の固さが関係していた、というのもよく聞く話です。
もうひとつは、続けるための仕組みです。経営者の方ほど、自分のことを後回しにしがちです。
「今日は疲れたからまた明日」が三日続けば、せっかくの習慣はあっけなく途切れてしまいます。
ストレッチ専門店を利用する意味は、まさにこの二つにあります。
専門のトレーナーが体の状態を見ながら、一人では届かない部位まで、ちょうどいい強さで伸ばしていく。
そして、予約という形でカレンダーに組み込むことで、「体を整える時間」が商談や会議と同じ重みを持った予定になります。
経営者の方が会議の予定を入れるのと同じ感覚で、コンディショニングの時間を先に押さえておく。私たちは、それがいちばん現実的な続け方だと考えています。
SPORTS STRETCH ESSENTIALは、東京都世田谷区にある完全予約制のストレッチ専門店です。決めた時間に来て、決めた時間で終えられる。
予定が読めることは、スケジュールの詰まった方にとって、案外大きなポイントです。
ご自宅での毎日のセルフストレッチと、専門店での定期的なメンテナンス。
この両輪で、体を「いつもの自分」の状態に保っていくのが理想の形です。
社長のコンディションは、会社のコンディション
設備のメンテナンスを怠る会社はまずありません。
機械が止まれば生産が止まることを、誰もが知っているからです。それなのに、会社でいちばん替えのきかない「経営者自身の体」の手入れは、なぜか後回しにされてしまいます。
体が軽いと、朝の判断が速くなる。肩の重さが抜けると、人の話を最後まで聞く余裕が生まれる。
夜にきちんと体をゆるめられると、翌朝の頭が冴える。
どれも決算書の数字には表れにくい変化です。
けれど、毎日積み重なれば、経営の質を確実に変えていきます。
まずは今夜、お風呂上がりに太ももの裏を30秒伸ばすところから始めてみてください。
そして、もう一歩踏み込んで体を整えたいと思ったときは、ぜひ一度、SPORTS STRETCH ESSENTIALのストレッチを体験しにいらしてください。
※本コラムは一般的な健康情報の提供を目的としたもので、特定の症状の診断や治療を目的としたものではありません。
強い痛みやしびれがある方、持病のある方は、ストレッチを始める前に医師にご相談ください。
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